皆さんこんにちは。今回は横浜の観光の中心地「みなとみらい21地区」に位置し、文化施設や観光・商業施設等に囲まれる恵まれた立地で、様々な切り口かつユニークなオルガン公演・催事から、若手オルガニストのための「ホールオルガニスト・インターンシップ・プログラム」まで積極的に続けてこられ、オルガンファンにはとても興味深い活動をされている横浜みなとみらいホールの取り組みをご紹介いたします。事業企画グループ長の藤井聡子さんにお話を伺いました。
大ホール全景 ©平舘平
1:事前予約不要の「オルガン・1ドルコンサート」シリーズや更にオルガン音楽に浸りたい方への「オルガン・1アワーコンサート」シリーズなど、横浜みなとみらいホールでは手軽にパイプオルガンの演奏を楽しめる公演や催事を積極的に続けてこられ、オルガンファンはもとより、オルガン音楽に関心を持ち始めた方にとっても非常に興味深い活動をされていらっしゃいますが、こうしたシリーズをはじめられたきっかけを教えてください。
“Lucy(ルーシー)”の愛称で親しまれる横浜みなとみらいホールのパイプオルガンは、ホールのシンボルともいえる楽器です。1998年の開館当初より、“Lucy”の音色を存分に楽しんでいただくために、オルガンの芸術性を追求する「オルガン・リサイタル・シリーズ」と、オルガン文化を広く普及していくための「オルガン・1ドルコンサート」を両輪でスタートさせました。両シリーズは長年好評を得てきましたが、2022年のホールのリニューアルを機に、「リサイタル」と「1ドル」の間をつなぐコンサートを、という想いから、第2代ホールオルガニスト 近藤岳の発案で、「オルガン・1アワーコンサート」がスタートしました。
過去のオルガン1ドルコンサートチラシ
オルガン1アワーコンサートチラシ
2:実際に続けてこられてみて、当初の目標や狙いに対してどのような成果がおありだったでしょうか。
「オルガン・1ドルコンサート」は、2025年3月に250回を迎えました。オルガン独奏が中心の本シリーズですが、過去には他の楽器とのコラボレーションを行ったり、演出を交えたりと、オルガンの新たな一面を発見していただけるアプローチを交えながら開催してきました。開館当時、こんなにも長くこのシリーズが続くことを想定していたかはわかりませんが、やはり継続の力は大きいと感じています。お客様から「横浜みなとみらいホールといえばパイプオルガン」と仰っていただくことも多いです。また、普及公演のみならず、「オルガン・リサイタル・シリーズ」や現代音楽等のチャレンジングなオルガン企画にも足を運んでくださるオルガンファンのお客様が確実に増え、根づいているというのをアンケートなどからも感じています。クリスマスのオルガン・コンサートは毎年完売しています。会社のお昼休みに「1ドルコンサート」に来てくださったお客様が、クリスマスに家族でご来場くださるのも嬉しいですね。 開館から27年経過し、欧米を中心とした教会と結びついたオルガン文化とは一線を画す、日本の「コンサートホールのオルガン文化」の確立に寄与していると感じています。
3:今年も様々な取り組みをご予定と察しますが、今後の注目のオルガン公演や催事がありましたら、教えてください。また今後の取り組みでご予定されていることがありましたら教えてください。
横浜みなとみらいホールでは、「聴く人」「弾く人」「創る人」など、さまざまな立場でオルガンに関わる機会の創出に取り組んでいます。
今年度もっとも力を入れている公演は、「阿部加奈子 指揮/作曲 横浜みなとみらいホール特別演奏会 神奈川フィルハーモニー管弦楽団~オルガン“LUCY”プロジェクト~」(2025年11月1日開催)です。ヨーロッパを中心に活躍する指揮者で作曲家の阿部加奈子さんに、新作のオルガン協奏曲を委嘱し世界初演します。ホールオルガニストの近藤岳がオルガン演奏を、神奈川フィルハーモニー管弦楽団がオケを演奏します。現在「横浜の風景」をテーマに、阿部さんが作曲中です。
また、なかなか弾くことのできないパイプオルガンを演奏してみたり学ぶことのできる機会も提供しています。毎年8月に開催する「みなとみらい遊音地」(2025年8月7日~10日開催)の期間中には、初心者向け、鍵盤楽器経験者向けの2つの体験講座を実施します。毎年抽選は10倍近い倍率で、大人気です!(※2025年度は6月30日で受付終了)
秋からは今年4期目を迎える10代向けの講座、約4ヶ月でじっくりオルガンを学べる「10代のためのパイプオルガン・レッスン」も募集予定です。
「阿部加奈子 指揮/作曲 横浜みなとみらいホール特別演奏会
神奈川フィルハーモニー管弦楽団~オルガン“LUCY”プロジェクト~」チラシ
4:パイプオルガンの魅力を更に知っていただき、たくさんの方にオルガンファンになっていただく活動を積極的にされていらっしゃいますが、一方で長年にわたり「ホールオルガニスト・インターンシップ・プログラム」を開講され、多くの活躍中のオルガニストの方が本講座を修了されていらっしゃいます。こちらはどのような内容になっているか、教えていただけますか。
「ホールオルガニスト・インターンシップ・プログラム」は今年度21期生を迎えました。ホールオルガニストに求められる資質は、演奏技術だけではありません。プログラムでは1年を通じ、オルガンの構造を学び、保守、調律などの基礎を習得します。また、ワークショップや広報等の普及活動への参加や、MC研修なども行います。更に、第2代ホールオルガニストの近藤岳になってからは、オルガニストに求められる資質のひとつとして、編曲・作曲のレッスンもプログラムに加わりました。そのほか、さまざまなオルガン事業や企画会議にも参加し、1年間を通して、公共ホールのオルガン運営を、ホールスタッフの一員として実践的に学んでいただきます。これは国内でも類をみないプログラムだと自負しています。
5:ホールの特徴、そして設置のパイプオルガン「Lucy」の特徴などを教えていただけますか。
横浜みなとみらいホールは、パイプオルガンが設置されている2,020席の大ホールと、440席の小ホールを有するホールです。その豊かな音響と、海のみえるホワイエは、国内でも唯一無二といえるでしょう。 “Lucy”は、アメリカ・フィスク社製のオルガンです。パイプの数は4,632本。輝くような明るい音色にふさわしく、「光」を意味するラテン語“lux”に由来し、名づけられました。港街の横浜にふさわしくカモメの彫刻や、日本にちなんだ鳥居や格子等の文様が施されています。現代のコンサートホールにおけるオルガンの理想を追求して設計されているため、バッハ以前の時代から現代に至る多種多様なオルガン曲を、それぞれにふさわしい音色で演奏することが可能です。
ホール所蔵オルガン“Lucy” ©平舘平
6:バイカウントオルガン通信の読者にメッセージなどがございましたらよろしくお願い申し上げます。
横浜みなとみらいホールでは、ほぼ毎月オルガン公演を開催しています。ぜひ生の“Lucy”の音色を聴きにご来館いただき、体感していただけると嬉しいです。きっと“Lucy”のファンになっていただけると思います!また、ホールの第2代プロデューサーでピアニストの反田恭平さんと取り組んだ「オルガン道場」など、さまざまな動画も配信していますので、ご覧ください。
いかがでしたでしょうか。ホールのスタッフの皆様ご自身も“Lucy”を非常に愛されていらっしゃり、その魅力をたくさんの方にお伝えしてファンを増やしていく活動を、熱意をもって続けられていることがよくわかり、印象的なお話となりました。今後の更なる展開に期待したいと思います。お話を伺った藤井聡子さん、ありがとうございました。
お話を伺った藤井聡子さん
※横浜みなとみらいホールの公式サイトはこちら